社会問題化している空き家の現状とは?

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少子高齢化が及ぼす社会問題については、経済的な問題が一番に取り上げられ続けています。
リタイア世代の人口が現役世代から大きく増えてきていることから、一番社会的に大きな問題として捉えられるのは年金問題です。

現役世代がリタイア世代を支える仕組みは、この仕組みが成立した時点の人口構成とは明らかに逆転しており、必然的に年金支給金額の減少という現実的な結果をもたらし、この先の制度維持についての不透明感を増幅させているのです。

この為に、老後の資金確保を目的として、消費が抑制され、経済が成長しないというジレンマに陥っています。

少子高齢化という社会現象は、社会保障制度と経済成長の両面で、わが国全体にストレスを晴らせないままでいるのです。
更なる社会問題として顕在化しつつあるのが住宅の空家化であります。

進んでいる空き家化

空き家。読んで字の如く、家が空いているのです。
住んでいた人がいたはずの家が無人化し、無人の家が放置されている状況を言います。

とっても不思議な現象です。

少子高齢化という人口構成の変化を捉えれば、現象は逆行しているのです。
新生児の出生数は年々減少し、平均寿命は延びて、少子高齢化が進行しているのであるから、老齢で住まう人の家は充足されて、若年層の住まい需要は減少するのが妥当でしょう。

つまり長年住んでいる高齢者の住宅は高齢者がそのまま居住し、
若年層が独り立ちして住まう社会人当初の住居数は減るのなら理解できますでしょうか。

つまりワンルームマンションやテラスハウス等、少人数用の賃貸集合住宅数が減少するのなら理解しやすいが、問題は建築年数が経過した戸建住宅の空き家化が進展していることなのです。

かなり原因分析がしにくいと言えるでしょう。
筆者の身の回りで起こった事実を披露することで、この問題の一因を考えてみます。

空き家の実例

場所は関東のとある市にある一木造戸建住宅です。
現在空き家化していて、事情は下記のとおりです。

一年前まで高齢女性が一人で居住していた住宅です。
元々は夫婦と息子一人、家族三人世帯の住宅として昭和40年代に建築された木造二階建ての戸建住宅でした。

息子は40年程前に結婚してこの住宅を離れています。その後夫婦二人で居住していたが、数年前にご主人が亡くなり、奥様一人で住まうことになります。
その奥様も昨年病気の為に施設に入居することになり、完全空き家になってしまいました。

奥様は施設入居しているが所有権者であり、既に家を出て長い時間が経過した息子さんは、自分の持ち家があり、この家に住む必要もありません。

住宅としては建築されてから年数を経過しているので、古民家という表現が適切かもしれません。
この古民家一軒家が空き家化して放置されていたのです。

空き家化してまだ一年の為、建築としての住宅そのものや、庭に成育する樹木の状況は悲惨な状況ではありません。
現時点では居住しているとも見える状態ですが、このまま数年間放置されることになれば、住宅そのものも老朽化し、樹木の状態も近隣に迷惑になる状況が想定されます。

これが、空き家の発生原因と現状の一つの例なのです。

筆者の身の回りで発生した空き家の例は一例とは言え、めずらしい例とは言えないのではないでしょうか。
家そのものを継いで行くことのできない家族関係の変化が、空き家を発生させていると言えるのではないかと思えるのです。

空き家化の原因?相続税

財産は相続されるべき存在ですが、生活環境はそのまま引き継げないという状況が、現代社会の生活環境として定着していると言えるのではないでしょうか。

これは、農耕型の社会構造から、工業型核家族化の社会構造への変化が、住宅の空き家化を深刻な社会問題化させているのだと思えます。

農家は土地と使用人を保持しながら、先祖代々の農地で農業を営む業態でしたが、農業人口が減少し続けて、国民の多くが農業以外の職業に従事しています。

その為に、代々所有していた住宅から、子供達は巣立って別の場所で仕事を開始し、就業先が大手企業ですと転勤などは日常茶飯事かもしれません。

元々自分が生まれ育った家に居住し続けることができない生活に身を置かざるを得ないことが増えてきています。

つまりは、家を含めた生活環境を引き継げないのです。

親は高齢化し、やがては亡くなっていくが、相続する子供達はこの家に戻る生活を選択できないし、しなくなってきていると思います。

必然的に家は空き家化せざるを得ず、放置されることにも繋がっているのです。

居住しないまでもメンテナンスをしたり、賃貸したりすることも可能ですが、自分で済む想定でメンテナンスすることは難しく、又居住する需要が無い地域や住宅に借り手はつかないです。

少子高齢化で老齢人口数は多くとも、長年住み慣れた住宅に老齢夫婦だけで住んだり、配偶者と死に別れたりと老人一人で住まうことは、たいへん厳しくなってきています。

やはり、少子高齢化では必然的に空き家が増加するのではないでしょうか。
もったいない話しですが、現代社会には、このように老朽化した住宅が、空き家化しているのが事実なのです。

空き家問題の解決策1・税制

さて、それではこの問題はどう解決すべきなのでしょうか。
経済の問題として捉えれば、空き家を賃貸可能な不動産としてみれば、空き家は増え続けているのだから家賃は低下します。
需要に対して供給過剰なのだから、貸し出す家賃は自ずと下がります。

年々空き家が増加すれば、より以上に家賃は下がり、借りようとするユーザーも増えるでしょう。
つまり、賃貸不動産物件として貸し出すことを促進すれば良いということになるのです。
その為には、政策的な後押しと、不動産業者の活性化が求められるでしょう。

政策的な側面では、居住者のいない不動産物件の所有者の固定資産税の引き上げと、その物件を賃貸させた場合の減税措置の両面ではないでしょうか。
固定資産税が上がれば、放置することなく売却してしまうか、賃貸させて収入を得ようとすることに繋がることが想定されます。

売却してしまえば固定資産税の支払い義務はなくなるが、賃貸の場合は所有者として固定資産税の支払い義務は残ります。

そこで空き家を賃貸させた場合は、固定資産税の減税を実現させるのです。

実は既に、平成26年より空き家対策の推進に関する特別措置法が施行されました。
空き家を放置させない為の行政手続きが強化され、固定資産税の住宅用地特例が除外されたのです。

空き家を改善しない場合は行政勧告がなされ、さきほど述べたように固定資産税の引き上げられる結果となるのです。

しかし、空き家を賃貸させた場合の減税は規定されていませんので注意が必要です。

空き家問題の解決策2・非住宅目的賃貸

一方で、不動産業者の活性化が最も求められます。

空き家が増加し家賃が減少するのに、居住者がつかないのでは何ら意味をなさないのです。
需給バランスのミスマッチを解消するには、不動産業者がその媒介として活躍してもらわなければ困るし、ここに不動産業者のビジネスチャンスも増加すると思っています。

不動産業者の事業も、旧態依然の単なる仲介業で留まっていると、この需給バランスの調整をビジネスチャンスに繋げることは難しいのではないでしょうか。

単なる仲介を超えて、新たなビジネスモデルを作り上げることで、このバランス調整はスピードアップする上、このビジネスで収益を上げる為の差別化も可能になるはずなのです。

この状況に一石と投じようとしている試みがあります。

既に実現されている例で言えば、住居としての居住者を仲介する従来型の不動産仲介ではなく、住居以外の目的で空き家を賃貸させる不動産仲介です。

本来住宅は居住目的での賃貸が基本であるが、その為には立地条件の良さが契約促進には必要となります。
つまり地方や交通機関へのアクセスが悪い場所では借り手はつき難いのが必然です。

とすると、全国レベルで、特に地方において空き家が増加する社会問題を解決することができません。

これを解消する為には、住居としての目的に限定するのではなく、住居以外の目的を許容することで、契約の可能性を促進させるのです。

賃貸人がこの意味を理解することが重要で、これを不動産業者が明確に賃貸メリットとして打ち出す必要があります。
昨今の具体的成功例で言えば、IT系企業のオフィスとしての賃貸があげられます。

IT企業の多くは、WEBで業務を完結させる場合が多いことから、都心や交通アクセスの良い場所にオフィスを立地しなければならないわけではないのです。

ネット環境がありPC作業ができる静かな空間があれば、むしろその方が業務効率は優れるわけです。
WEB環境とIT業務というと、無機質な印象がありますが、事業内容にもよるとはいえ、意外な程にIT企業の多くは、古民家というオフィス環境を望ましいと考えている企業もおおいようです。

その上で、地方の空き家をその目的場所として使用すれば、コスト削減効果も大きいかもしれません。

このスキームで既に古民家の空き家を賃貸して、オフィス展開しているケースが事実上増えているのです。

空き家問題の解決策2・高付加価値非住宅目的賃貸

又、今後の展開を模索している例で言えば、古民家再生リノベーションビジネスもあります。

空き家古民家をリノベーションを施して再生し、より以上に価値を高め、この古民家を利用して収益を上げる企業を誘致する事をパッケージで推進しようとする事業です。

空き家を単純にリフォームして、一般的な賃貸入居者を探すという不動産業とは違う、新たなビジネスなのです。
ニッチビジネスに見えるこの事業計画ですが、これからの日本のあちこちで大きな社会現象になる高齢化による住宅の空き家化にひとつの解決策を提示していると言えそうです。

居住人がいなくなった空き家の持ち主から、この事業を推進する企業が住宅を借り受け、自らがリノベーションを施し、宿泊業や飲食業者に転貸借するのはおもしろいモデル化もしれません。

単なる仲介ではなく、単なるリフォーム業者でもなく、貸主借主の意向を整合した上で、リノベーションを施し、付加価値をつけることで収益を上げるビジネスモデルです。

空き家住宅の持ち主には賃貸収入が発生し、リノベーション工事受託企業には工事請負契約による収入が発生します。

もちろん借主となる宿泊業者又は飲食業者はこの施設を利用して質の高い顧客からの売上を上げ、訪れるお客様は、再生され現代建築化された古民家で、くつろぎと安らぎとを味わうことができます。

住むだけではない空き家古民家再生手法。そして、貸主借主だけでない多方面へのソリューション。
このコーディネートを全て請け負うのが、この事業を計画している企業なのです。

その上で、これ以上に国のあり方と経済効果を狙っています。
日本古来の木造軸組み工法の空き家古民家と、それを生かすリノベーション技術で、海外からの観光客におもてなしの空間を味わってもらう狙いも付加しようとしているのです。

海外から訪れる観光客に、東京という最先端都市や、富士山や京都という有名観光地だけでなく、日本の究極のコンセプトである「おもてなし」を知ってもらうことができます。

この戦略で外貨を獲得したり多くの外国の方々に日本を再認識したりしてもらうことができるでしょう。

空き家と言う社会問題と、歴史と文化と安らぎを味わいたい外人観光客。
両者が交わることで、生み出される新たな価値観もあるかもしれません。

社会問題である空き家が、経済効果と対外効果を生み出すことができる可能性を持っているかもしれません。

ヨーロッパ建築に求めたい答え

最後にもう一つの側面で空き家問題を捉えてみます。

それは建設問題です。

ヨーロッパに脚を運ぶと強烈に感じるカルチャーショックがあります。
ヨーロッパの各都市には、日本や中国に象徴される高層ビル建築が極めて少ないことに気づきます。

基本は石造りの低層建築。一般的に住宅は戸建建築ではなく、低層の集合住宅。
日本の木造軸組み工法の建築ではなく、石造りである上に、地震が少ない地域性と相まって、建築が数百年レベルで維持され現存しています。

もちろん、外観からはわからないだけで、その石造りの住宅にも、空き家は存在しているのかもしれません。
しかし、日本の空き家とは違いがそこには歴然としてあります。

老朽化していても朽ちていないのです。

中世の時代からの建築、更にはそれ以前の時代の建築かもしれません。
街を歩いていると、この建築と街並みは中世とほとんど変化が無いのかなと思ってしまいます。

道路には自動車、歩く人々は現代の服装を着て歩いているが、中世の人々もこの建築と街並みのままに、馬車に乗り、中世の服装で歩いていたのでしょう。
つまり、古い数百年前の建築が社会問題にならないのです。

昔と変わらない建築と街並みなのに、現代でも社会生活に溶け込んでいることがすばらしいと感じました。

日本はどうでしょう。

湿潤温暖な気候で、地震が多い国。
木造軸組み工法の建築で、数十年で解体を繰り返し、新築し直して居住する国。それが日本です。

その上で少子高齢化していて空き家が増加しているので、老朽化した住宅そのものが危険性を伴い、生い茂る樹木は近隣に迷惑さを生じさせています。

ヨーロッパの住宅は朽ちず、集合住宅のため樹木は生い茂る問題は少ないです。

建築そのものの違いが空き家の社会問題の発生にもおおきな違いを生んでいるようです。

では、日本の住宅をヨーロッパと同じ様に石造りで統一可能かと言えばそれは不可能なことです。

 

それでは建築はどうあるべきなのでしょうか。

当然耐久性の強い建築が求められると思いますし、持続性の高い住宅構造が必要なのかと思います。

木造軸組み工法という日本の伝統的な住宅工法を基本としつつ、耐震補強のし易さ、増改築のし易さ、縮小のし易さ、逆に解体のし易さ等、現在の人口構成から、想定される居住必要面積や用途変更を容易にすることで、空き家を放置する結果にならない様に、持続可能な住宅様式にするべきなのでしょう。

それは、建築技術そのもののイノベーションと、住まい方や再利用の仕方を持続可能に仕向ける必要性があるでしょう。

前段で記述したとおり、居住目的であった住宅を、居住目的以外にも持続的に利用できるモデルケースをモデルに終わらせることなく実用に仕向けていかなければなりません。
古い住宅を解体し新築するサイクルのみならず、ビンテージ住宅としての価値を経済の仕組みに組み込む必要性もあるでしょう。

つまりその方向性は、今までのわが国のあり方を様々な角度から見直す必要に迫られているとも言えるのです。
知性的に住宅の有り方を考察し変革し続けなければいけないでしょう。
その意味で、ヨーロッパの居住空間のあり方を参考にしなければならないでしょう。
国家面積の狭さと人口密度との兼ね合いからみても、ヨーロッパのあり方は参考になるはずなのです。

求められるポジティブソリューション

今後の日本における大きな社会問題になり初めている空き家について、その発生要因と、現代的な解決の方法論を考察してみました。

都会に生活しているとこの現象にはなかなか気がつかないのですが空き家はどんどん増えています。

一方で地方に暮らしている人にとっては、今に始まったことではなく、何十年も前から発生している事実なので、都会人とは逆で問題認識が薄れています。
つまり、全国レベルで空き家の発生状況についてはなかなか認識されないまま放置されてきているのです。

ここがこの問題の奥深さでもあります。
住宅という生活の基盤について改めてよく考えてみる必要があります。
空き家の増加という社会的な問題を、ネガティブに問題視するのではなく、歴史と文化が集積された生きる経済物として活用していきたいですね。

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