増加する「空き家」問題|「相続放棄」と管理義務

Pocket
LINEで送る

相続放棄したから空き家の管理なんてする必要はない。「放棄」という言葉の一般的な解釈に従えば、このように思ってしまうのは仕方がないことでしょう。しかし、この考え方は明らかに間違っています。そして、この誤解がのちに大きなトラブルを引き起こす原因になってしまう可能性があります。相続放棄したからと言って、空き家の管理義務を履行することなく放置してはいけません。それでは、なぜ相続放棄をしても空き家の管理義務が存続するのか。この点について詳しく見ていきたいと思います。

1.相続放棄とは?

まず初めに相続放棄について説明したいと思います。例えば、親であるAさんが亡くなり、子どもであるBさんが相続人となった場合、Bさんには三つの選択肢が生まれます。一つ目が単純承認です。これを選択すると原則通り相続の効果が発生します。「自己のために相続があったことを知ったときから3カ月」(民法915条)を過ぎた時点で、Bさんが何の法的手続きも取らなかった場合、原則として単純承認とみなされます。この場合、Aさんの財産に加え負債も相続されます。

 

二つ目の選択肢が限定承認です。これを選択すると「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続を承認することができる」(民法922条)という効果が発生します。つまり、Aさんの相続財産の損益がマイナスになった場合Bさんはマイナス分を相続しないという効果です。原則として「自己のために相続があったことを知ったときから3カ月」(民法915条)以内に法的手続きをとる必要があります。

 

三つ目の選択肢が相続放棄です。これを選択すると「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」(民法939条)という効果が発生します。つまり、BさんはAさんの財産や負債の一切を相続しないということです。Aさんの負債が莫大であるような事情の下、Bさんがこの負債を相続したくないという場合に、相続放棄を選択すれば負債を相続せずにすみます。相続放棄に関しても、上記と同様、原則として3カ月以内に法的手続きをとる必要があります。

 

2.相続放棄すれば空き家の管理はしなくてもいい?

では、相続放棄した場合、相続財産である空き家の管理義務は発生するのでしょうか。前述の例にならい、Aさんの相続財産である空き家甲をBさんが相続放棄したとしましょう。相続放棄したのだから管理義務なんてあるわけないと思うかもしれませんが、民法940条に以下のようにあります。「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」

 

つまり、次の空き家の管理者が決まるまでは、たとえ相続放棄したとしても、Bさんは依然として空き家甲の管理義務を負います。理不尽なように思えるかもしれませんが、940条がなければ、空き家に関係したトラブルで第三者が損害を被った場合に、責任の所在が不明になってしまいます。したがって、責任者、つまり次の管理者が決まるまではBさんがその責任を負うと条文で定められたわけです。

 

では、相続放棄をしてから次の空き家の管理者が決まるまでどの程度の期間を要するのでしょうか。例えばBさんに兄弟がいた場合、その兄弟の誰かが空き家甲を相続すれば空き家の管理者は引き継がれます。ですが、相続放棄のケースはAさんの負債が多い場合など、負債を相続したくないという理由で行われる場合が多いです。ですから、Bさんに兄弟がいたとしてもBさんと同様に相続放棄を選ぶ場合の方が多いでしょう。

 

このように相続人の全員が相続放棄した場合、空き家の管理義務の問題は未だ解決しません。このような場合は、裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることによって、管理義務が選任された管理人に引き継がれます。この手続きが終わり、次の管理者が決まるまでの期間は、相続人は空き家の管理義務を負います。

 

3.空家放置で近隣に迷惑が及ぶリスク

では、未だ次の管理者が決まっていない状況でBさんが空き家を放置してしまった場合、どうなってしまうでしょうか。まず第一に考えられるのが、建物の倒壊によって第三者を傷つけたり、第三者の財産を損壊してしまうケースです。これについては民法717条1項において定められていて、土地工作物責任と言います。土地の上の工作物の設置または保存に瑕疵が認められた場合、被害者に対して損害賠償責任を負うと定められています。例えば老朽化したまま放置していた塀が倒れて隣家の車を壊した場合はBさんは損害賠償責任を負います。また、2項において竹木についても準用されているので植物についての瑕疵も責任を負わなければなりません。Bさんが空き家にある大きな木の管理をせずに放置し、木が倒れて隣家の家屋を損壊した場合も責任を負います。

 

また、空き家の近隣住民に対しての道義的問題の側面もあります。空き家を放置していると、野良猫やネズミなど害獣が集まってきたり、スズメバチやその他害虫が大量に発生したりなど近隣住民の頭痛の種になってしまうこともあります。また、不審者や犯罪者が身を隠す場所にもなってしまいますので、地域の防犯にとっても好ましいことではありません。したがって、最悪の場合、Bさんが近隣住民から嫌われてしまうことにもなりかねません。

 

このような事態に陥らないようにするためには、空き家を相続放棄したとしてもしっかりと空き家の管理を行っていく必要があります。ですが、空き家と相続放棄をした人の住所が離れていたり、相続放棄をした人が多忙でなかなか空き家の面倒を見に行くことができないというケースも多いと思います。これらが近年の空き家問題を増加させている原因の一つだと言えるかもしれません。いずれにせよ、空き家について相続放棄をした方は一刻も早く次の管理者を決める手続きを進めたほうが良いと思います。無用なトラブルは避けるに越したことはありません。

 

4.まとめ

相続放棄をしても、次の管理人が決まるまでは空き家の管理義務は消滅しません。ですので、これから空き家を相続放棄しようとしてらっしゃる方は、そのことだけはくれぐれも注意してください。そして、空き家を放置してトラブルに巻き込まれるような状況だけは避けてください。また、現に空き家の管理をしている方も、空き家に関係するトラブルに巻き込まれたりしないように空き家の管理に注意を払ってください。

Pocket
LINEで送る

この投稿へのコメント

コメントはありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

この投稿へのトラックバック

トラックバックはありません。

トラックバック URL